●私はそうめん製造元の2代目 伝統を背負う産地にて
私は、そうめんを製造する事業所の2代目です。自分の会社だけでなく、産地をよくしたいとの思いで日頃から働いています。
半田そうめんは、2022年に地域団体商標を取得しました。
その由来は、江戸時代中期、吉野川の川舟で物資を運ぶ船頭衆によって、 三輪から淡路、さらに鳴門を経て半田の里にその製法が伝えられたといわれます。剣山から吹き下ろす風と吉野川水系の水にも恵まれて、今日に至っています。
●手延べでつくる
半田そうめんは、機械製麺ではなく手延べといわれる技法が中心です。手延べとは、麺生地をひねるようにしながら延ばす製法です。塩水を入れた小麦粉の熟成を見ながら時間をかけてひものように延ばして麺にしていきます。機械製麺と違い、多層構造を持つ麺の腰はあるのに粘らず、歯ごたえがあっておいしい、とされています。当産地もご多分に漏れず職人の高齢化が進展していますが、「手延べ」は手づくりの温もりという情緒的な価値だけではなく、乾めんのおいしさをつくりあげる大切な要素と気付きました。
どこの産地も同じだと思うのですが、省力化のために機械設備を導入しています。当社でも一部の工程では設備を導入しています。それは、人が担当すると作業がきつい、機械が行っても風味を損ねない(むしろ均一に仕上がる)などの利点があるからです。
今後も、手頃な価格で良質の乾めんをお届けしたい、人口減少や高齢化にあっても製造を止めることなく事業を続けていきたいと考え、機械化は進めていきます。しかし、どうしても機械化できない工程があり、そこに手作業の意義があります。機械でできること、人の手で行うことを見極めながら、「手延べ」の価値をお伝えしていきたいと思っています。
●乾めんはおいしい
ここで「そうめん」と書かずに「乾めん」としているのは、麺そのものを味わう可能性を、そうめん料理に限定する必要はないと思っているからです。
乾めんは優れた食材で、冷蔵庫や冷凍庫不要で保管に場所を取らず、賞味期限も長く、自分で調理する愉しみがあります。茹でるという手間がありますが(そのアナログ感を愉しんでいただけたら(^^))、それゆえに茹でたてを味わえて、価格は手頃です。茹でたてとは、高温で加熱することで小麦粉のデンプン質がアルファ化=(糊になる)すると、小麦由来の甘味、旨味、ねばりが現れて「おいしい♪」と感じられるということです。
●半田そうめんをカップ麺で―。評価された取り組み
半田そうめんの乾めんづくりに携わってきて、やってみたいことがいくつかありました。そのひとつは、半田そうめんをカップ麺にすることです。
なんだかキワモノのようですが、いざ発売してみると私たちの地元でさえ、急なお客様が見えられたとき(おそらくは親しい友人や知人、親戚でしょう)、すぐに出せる食事として半田そうめんのカップ麺が重宝されているようです。これは私も意外でした。さらに自動販売機で販売することで、コロナ下にみなさまの食卓に安全に届けたいと考えました。
この取り組みが、徳島県で新規事業に意欲的に取り組む中小企業を顕彰する「頑張る中小企業大賞」2022年度最優秀賞に、プラスチックフィルム製造業の船場化成さん(徳島市)とともに当社が選ばれました。思いが地域社会で評価されて嬉しいできごとでした。
→ 入手希望の方はこちら「阿波名産 半田手延べそうめん~ノンフライカップめん ケース12個入り」
https://www.kitamuro.co.jp/item_category/nm02.html
●麺そのものを味わいたい
半田そうめんは、稲庭うどんのように太めの麺が特徴です(農林規格上は「ひやむぎ」とされています)。そのため噛み応えがあり、小麦由来の甘味や旨味を感じやすいので、麺好きのための麺、麺そのものをお好きなかたちで愉しんでいただけるはずです。
麺づくりに携わる者なら、売れる売れないは別にして、さまざまな制約を取り払って、ひたすらおいしさを追求する製品をつくりたいと思わずにはいられません。その方法について研究を重ねてきました。大きく分けて原材料と製法(品質管理)ということになります。そこでできうる限り、おいしさに貢献する要素を吟味して試作を重ねて自分でも納得が行く製品が仕上がりました。
さっそく麺通の人たち、流通や飲食に携わる方々に試作品を召し上がっていただいたところ、最初のひとくちで違いがわかる、麺のなめらかさが違う、小麦の風味が感じられる、食欲をそそる色あい、これまで味わったことがないおいしさなどのコメントをいただきました。
●量産できない~ほんとうに大切なことは目には見えない~
製品づくりを通して感じていることは、人の口に入るものを、ほんとうにおいしく仕上げようと思ったら、手仕事が欠かせないということ。そうめんが熟成する環境をていねいに見つめて最適に育てる感性がなければ、いくら良質の素材、高性能な機械を使っても、量産化しようとした時点で、おいしさの前提が崩れてしまうことがわかりました。
麺が心地よい環境とは、例えば、畜産での動物が心地よい環境づくりに似ています。風通しが良い場所で、(麺づくりでは乾燥工程などで)詰め込みすぎず、時間をかけるべきところは時間をかけて決して急がない。育てる(熟成)過程ではよく観察して動物(麺)がしてほしいことをやってあげる。
つまり、量産しないものづくりが出発点となります。量産しないから良いものができるのではなく、そこから先に別の世界があるということです。ただし量産は否定しません。多様な選択肢が提案されることはお客様の理に叶うことですから。
こうしてできた製品ですが、名称や売り方などにお金をかけないことにしました。マスコミの取材も考えておりません。ただ、麺を食べる幸福感を手が届く価格でお分けできたらと以下のような方針で行こうと考えました。
・広告宣伝費はかけません。
・おいしさと品質保持のために量産は行いません(できません)。でも「限定商法」のように意図的につくらないのではなく、できる限りの供給を行うよう努めます。
・「高級感ある」盛ったデザインは採用しません。品質を保持することを主目的に包装(パッケージ)を決めます。
・卸販売は行いません。卸のマージンを省いて直接お届けすることが少しでもお求めやすくしたいからです。
→ 製品をご希望の方はこちらからどうぞ
「好きな人に届ける麺」(仮)
●産地が続いていくために これからもここで生きていくために
(読み飛ばしていただいて構いません)
日本のものづくり、特に食品づくりは岐路に立たされています。機械メーカーはしのぎを削って高付加価値な設備を開発して提案していますが、それらは高齢化で人手が確保できない悩みや、生産性を上げて収益を改善することは可能です。
産地の業者がこれらの最新設備を導入すれば、売上はやや上がるかもしれませんが、借入が増えて返済が増えます。返済途中で差別化のために新たな設備を導入すれば、また借入の返済に追われる循環です。これでは中小企業・小規模事業者は存続することができません。
それでは大企業のみになれば良いかというと、これまで述べてきた手延べなど効率より価値を大切にするものづくりは失われます。こと食品に関する限り、規模の大きな経営は失うものが多いと感じます(決して機械化や規模を否定しているのではなく、本質を見ていかなければ見えてこないことがあります)。
半田そうめんが地域団体商標を取得した2022年以降、私は産地の事業所が消費者の方々の支持を得ながら存続していくためには、手延べの価値をみなさまにお伝えしつづけるしかないと感じています。
そんな思いから、私のような生産者が直接みなさまのお口に届けるために、「半田そうめん食堂」を隣町のつるぎ町貞光の古い町並みのある地区で、地権者の折目さまのご賛同を得て開業しました。
(古民家宿 折目邸 遊懐(ゆかい) https://www.orimetei.com/)。
折目邸の中にある「半田そうめん食堂」
こちらにお越しいただけますと、吉野川水系貞光川に育まれた町並みの古民家で、北室白扇がみなさまにお届けしたい麺を、誠意を込めてお出しいたします。お食事後は折目邸周辺のうだつの町並みの散策が愉しめますし、まちのはずれにかかる貞光川の潜水橋は一見の価値があります。さらに足を伸ばせる方は、急傾斜地農業の視察や、西日本第二の高峰、剣山(1995メートル)が上流に鎮座しています。
●川のそばまで山が迫る 半田の街並み
河岸段丘や盆地の中のわずかな場所が耕作可能な場所。葉タバコに果樹、漆器製造、そうめん作りといった、平らな土地でなくてもできる生業を見つけた先人たち。
半田手延べそうめん発祥の地「小野浜」の常夜灯。吉野川と半田川の合流点にあり、船着き場であった。
私は、これからもこの半田の地で生きていきたいと思います。
手延べや手作業の価値を大切にしながら半田そうめんを愛し、食べてくれるみなさまにご支持をいただけることで、半田そうめんの産地が存続できるのではとの願いを込めて。
(有限会社北室白扇 北室淳子)